【セミナーレポート】どこからが営業秘密なのか?前職のノウハウとの違い

急増する営業秘密の持ち出しの実態と対応策③ 2023年11月9日(木) 13:30~14:30に開催されたセミナーをコラム化した記事になります。

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【セミナーレポート】急増する営業秘密の持ち出しの実態と対応策②

営業秘密情報の持ち出し事案におけるデジタル・フォレンジック調査の活用

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今回のコラムでは、セミナー参加者の皆様から頂いた質問にパネラー陣が回答をしつつディスカッションをしたパートをコラム化しております。

Q.営業秘密の範囲について教えてください。

頭の中にある前職での営業情報を転職後の会社に漏えいした場合も営業秘密の持ち出しとみなされる可能性があるとのことですが、前職での経験・ノウハウを転職先で活かすということと紙一重のような気がします。

営業秘密と頭の中にある転職前のノウハウ、スキルの違いはどこに見出せばよいのでしょうか?何が経験・ノウハウとして整理できて、何が営業秘密に該当するのか法的観点からご教示ください。

1.営業秘密の範囲とは

(1)営業秘密の3要件

営業秘密とは

不正競争防止法では、企業が持つ秘密情報が不正に持ち出されるなどの被害にあった場合に、民事上・刑事上の法的措置をとることができます。そのためには、その秘密情報が、不正競争防止法上の「営業秘密」として管理されていることが必要です。

秘密管理性

営業秘密の保有企業の秘密管理意思が、秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保されること。

有用性

当該情報自体が客観的に事業活動に利用されていたり、利用されることによって、経費の節約、経営効率の改善等に役立つものであること。

非公知性

保有者の管理下では一般的に入手できないこと。

経済産業省「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」から抜粋

営業秘密の3要件は、①秘密管理性、②有用性、③非公知性ですが、営業秘密の範囲を画するのは、①秘密管理性です。企業の事業活動のなかで生成、利用される情報である限りは、②有用性と③非公知性がないと認定されることは、実際にはほとんどありません。


(2)秘密管理性

では、秘密管理性はどのような場合に認められるのでしょうか。

法的には、企業における秘密管理意思について、従業員など働いている方々に対する認識可能性が確保されていることが必要であるとされています。要するに、企業として外に漏らしてはいけない秘密であると考えているということが、従業員に分かる状態になっている必要があります。

例えば、紙のドキュメントであれば、いわゆる、マル秘、社外秘、厳秘など、要は持ち出し禁止であることが分かるようなマーキングがされている状態というのが典型的なものです。

デジタルデータであれば、サービスの提供に必要なあるデータを利用してしかるべき人にだけアクセス権限が与えられていて、アクセス権限がない人はアクセスできないという形が取られているものがあります。顧客名簿や事業計画は、基本的には「社外秘」のような形で管理されているので、典型的な営業秘密にあたります。

そのため、この営業秘密の範囲は広いのですが、最近、ご相談の中で、データの利便性を追求するあまり、秘密管理が徹底されていないことが多くあります。

例えば、アクセス制限をかけているといっても、ログインをするためのIDやパスワードが全従業員に付与されているといった場合があります。そうすると、アクセス制限は、絵に描いた餅の状態になり、誰でも見られるものになってしまいます。

そのような場合、会社におけるデータの管理方法は、見直す必要があるかと思います。情報を守るという観点からすると、この点も考えて管理体制を構築した方が良いということになります。

以上が、営業秘密の範囲についてのお話になります。

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2.前職での経験・ノウハウの活用と前職における営業秘密の持ち出しとの区別について

(1)経験と営業秘密の区別は難しい

「頭の中にある前職での情報を新しい会社に漏らした場合も営業秘密の持ち出しとみなされる可能性があるとのことですが、前職での経験・ノウハウを活かすということと紙一重」という点ですが、これは営業秘密に関する社内研修の中で、よくなされる非常に鋭い質問ですが、回答がなかなか難しいです。

実際、転職者を受け入れるときは、やはり前職を含めた事業の経験値があるからこそ受け入れるわけであって、そのノウハウの利用は会社として当然期待するところだと思います。

そのため、その転職者が頭の中に持っているノウハウを使いたいということは、転職者を受け入れる企業の立場からは当然です。

(2)営業秘密該当性

他方で、明らかにその情報が、その人のノウハウではなく、その前職の客観的データである場合があります。それは頭の中で記憶だけで全ての情報を転職時に持っていくことが可能か、何らかの紙やデータも前職から持ち出しているのではないかと疑った方が良いのかもしれません。

そのため、例えば、転職後の製品開発のときにあまりにも詳細な商品スペック情報などが出てくるということになると、事情が変わってきます。このような情報を転職を受け入れた後に転職先の企業が知りながら使ってしまうと、企業としても不正競争防止法違反となる可能性があります。

法的には、企業として、そういった情報が不正に持ち出されたものであるということについて、悪意や重大な過失があったような場合には、使用した転職先の企業の責任が問われることになります。

この点、前職での経験・ノウハウにとどまるものであるのか、前職における情報を持ち出したものであるのかというのは、持ち出された情報が数値やデータか否かという切り口から判断ができると考えられます。

例えば、紙媒体を持ち出した、あるいは、データベースで管理されていた営業データや設計図などの技術書面ドキュメントを持ち出した、ということであれば、営業秘密の持ち出しが立証しやすいですが、単に頭の中に入っているノウハウである限りは立証が難しいということになります。

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