長時間労働・ハラスメントへの企業の対応とフォレンジック調査を解説

2024年4月18日 14:30〜15:30に開催されたセミナーをコラム化した記事です。アーカイブセミナー本編では、本コラムでは記載していない「質問回答&パネルディスカッション」も収録していますので、是非お申し込みください。

「企業の不正調査実務とフォレンジック」シリーズセミナー
第2回 過労死・パワハラ・セクハラに対する対応とフォレンジック調査

<セミナー概要>
在宅勤務の普及に伴う、近時の長時間労働の実態や訴訟例をご紹介しつつ、企業における長時間労働や過労死に関するトラブルへの対応および防止策についても解説します。また、デジタル・フォレンジックを活用した長時間労働の実態把握、パワハラ・セクハラの証拠獲得について解説します。

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1.企業における長時間労働及びハラスメント対応

昨今、一連の働き方改革やいわゆるパワハラ防止法の施行により、長時間労働やハラスメントに対する規制が強化されています。また、実際問題として過労死やパワハラ、セクハラなどの案件も非常に多く発生しており、企業における長時間労働やハラスメントへの対応の重要性がますます高まっています。

以下では、長時間労働とハラスメント対応に分けて、具体的にどのような問題点があるのか説明します。

(1)長時間労働が問題となる場面

長時間労働が問題となる場面としては、以下のようなものが想定されます。

  • 内部通報等を通じて、記録されていないサービス残業の存在が申告される場合
  • 従業員から訴訟や労働審判等で残業代請求を受ける場合
  • 長時間労働により、過労死を招いたとして、あるいは、うつ病等の精神疾患に罹患したとして、労災申請を受ける場合

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これらのケースにおいて、企業としてすべきことは、①証拠の収集と②長時間労働の存否の事実認定です。

①証拠の収集

長時間労働が存在するのか、その実態はどのようなものなのかを調査する必要があります。具体的には、従業員の勤務記録やタイムカード、メール等の証拠を収集する必要があります。

②長時間労働の存否の事実認定

企業としては、収集した証拠に基づいて、長時間労働が存在するのか、あるいは存在を否定できるのかを事実認定する必要があります。

(2)ハラスメント対応における調査ポイント

ハラスメント対応においても、企業は証拠の収集をしたうえで、証拠に基づいてハラスメントの存否の事実認定をする必要があります。この点、ハラスメント、特にパワハラやセクハラは、密室で行われることが多いという特徴があります。そのため、事実認定にあたっては、当事者の供述や録音などの証拠が重要になります。

さらに、当事者間のその場でのやり取りだけでなく、継続的な関係や前後のやり取りも考慮する必要があります。ハラスメントが成立するか否かの事実認定は、これらの要素を総合的に判断する必要があるのです。

長時間労働及びハラスメント対応における実情

長時間労働

  • 内部通報等を通じて、記録されていないサービス残業の存在が申告される場合
  • 従業員から訴訟や労働審判等で残業代請求を受ける場合
  • 長時間労働により、過労死を招いたとして、あるいは、うつ病等の精神疾患に罹患したとして、労災申請を受ける場合

ハラスメント対応

  • ハラスメントの調査は供述のみに依拠しやすい
    • 社員間の継続的な関係は?
    • 前後の経緯や背景事実の存在

2.長時間労働及びハラスメント対応における事実認定の実情

それでは、企業におけるハラスメント対応と長時間労働対応の事実認定の実情について、もう少し深掘りしてお話ししていきます。

(1)長時間労働の事実認定の実情

長時間労働における事実認定方法ですが、裁判において、長時間労働の事実認定を行う際には、客観的な証拠であるタイムカードや入退館記録などが重要になります。

特に、労働者側からこれらの記録が提出された場合、会社側が別の客観的証拠で覆さない限り、裁判所は会社側の主張を認めないことが多いです。

例えば、従業員が9時から深夜12時まで働いていたことを示すタイムカード記録があれば、裁判所はそれを基に長時間労働を認定する可能性が高いです。

しかし、タイムカード等の勤怠記録が正確でない場合もあります。

以下は、そのような場合の具体的な例です。

  • 夕食のために長時間離席していたにもかかわらず、タイムカード上は深夜12時まで働いていたことになっている。
  • 勤務時間中に私用でSNSや動画を視聴していた。

このような場合は、会社側は以下の方法で反論することができます。

  • 従業員への聞き取り調査
  • 他の従業員の証言
  • 防犯カメラの映像
  • パソコンのログデータ

これらの証拠に基づいて、タイムカードの記録が不正確であることを証明できれば、会社側の主張が認められる可能性があります。

ただし、実態としてこのような事情が数日について確認されたに過ぎなければ、大幅な労働時間の認定を減らすことは難しいと考えられます。一般論としては、労働時間の認定を大幅に減らすことに対しては、限定的な効果しか期待できないと言わざるを得ません。

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(2)ハラスメント対応の事実認定の実情

ハラスメント対応における事実認定については、先ほども述べたように、当事者の供述や録音、メールなどの客観的な証拠が重要になります。特に、ハラスメントが密室で行われることが多いことを考えると、供述や録音は重要な証拠となります。また、メールなどのやり取り内容も、ハラスメントの事実認定に役立ちます。

これらの証拠を総合的に判断することで、ハラスメントがあったかどうかを認定していくことになります。

①パワハラにおける事実認定のポイント

パワハラの場合、被害者が致命的なミスをしていないかどうか、そのミスに対して実質的な指導を行っていたかどうかも考慮して、パワハラが成立するかどうかの事実認定がなされます。

②セクハラにおける事実認定のポイント

また、セクハラの場合、最初は恋愛関係にあった二人が、関係性のもつれから被害申告を行うケースもあります。このような場合、前後の経緯、やり取りの内容なども考慮して、セクハラが成立するか否かの事実認定がなされます。

3.証拠収集におけるデジタルフォレンジックの活用と企業の留意点

(1)有事におけるフォレンジックの活用

では、労務事案の有事におけるデジタルフォレンジックの活用について、具体的に説明します。

デジタルフォレンジックでは、以下のようなことが可能です。

  • 削除されたメールやオフィスファイル等の復元
  • ウェブサイトへのアクセス履歴やアプリケーションの起動ログの確認

またドキュメントレビュープラットフォームを活用することで、以下のことが可能になります。

  • 特定のワードで一括検索を行い、関連するメールやチャットデータを抽出する
  • 特定のメールアドレス間のやり取りを抽出する

これらの機能により、ドキュメントレビューを効率的に行うことができます。

①長時間労働における証拠収集の効率化手段としてのデジタルフォレンジック

先ほど、長時間労働やハラスメント事案における証拠収集についてお話ししました。

例えば、裁判において、従業員が長時間労働やハラスメントを受けていたことを証明するためには、残業時間やハラスメントの内容を裏付ける証拠が必要です。

しかし、会社側が従業員のサボタージュを主張している場合、実際にサボっていたことを証明する証拠を突き止めることが難しい場合があります。

理論的には、メールの検索や他の従業員への聞き取り調査などを行うことで、証拠を収集することは可能です。

しかし、実際には手作業でこれらの証拠を収集することが難しい場合が多く、結果的に真実とは異なる認定がされてしまうケースが頻繁に発生しています。

そこでデジタルフォレンジックツールを活用することで、企業調査のリソースを大幅に節約しつつ、証拠収集を効率化し、真実の証拠を裁判所に提出できるようにすることが重要です。

②懲戒解雇における証拠の活用と保全

ハラスメント問題が顕在化するタイミングの一つとして、懲戒解雇があります。

例えば、従業員がハラスメント行為を行い、会社側が懲戒解雇処分を下した場合、解雇された従業員から「ハラスメント認定は誤りである」と主張して争いが起こることがあります。具体的には、懲戒解雇に至るほどひどいハラスメント行為がなかったと主張するケースが増えています。

このような場合、会社側が不利な立場に立たされることが多々あります。裁判において、会社側が主張していた事実と異なる証拠が次々と提出され、窮地に立たされるのです。

そこで重要となるのが、ハラスメントに基づく処分を行う際に、しっかりとした証拠に基づいて処分を行うことです。

証拠に基づいて処分を行うことで、裁判で争われたとしても、会社側が適切に事実認定を行っていたことを証明することができます。その結果、裁判を有利に進めることが可能となります。

証拠の活用と保全は、ハラスメント問題、特に懲戒解雇に関わる問題の解決において非常に重要です。

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(2)平時における体制構築

  • 近時は長時間労働やハラスメントの発生によるリスクを認識し、これに適切に対応しようとしている企業が多数となっている
  • 適切な対応のための「方法」に不備が出ないようにするためにはどうするべきか、ということを検討するフェーズへ
  • 自社で起こり得る固有のリスクを分析し、リスクに応じた体制構築、ツールの導入を行うことが重要

①労務事案の予防策としての平時における体制構築

先ほども述べましたが、企業がハラスメント問題に適切に対応しようとしても、証拠不足が原因で訴訟に負けてしまうケースがあります。例えば、被害者からの申告のみで調査を行い、十分な証拠を収集せずに処分を行った結果、処分が不当と判断されてしまうことがあります。

また、企業によっては、残業時間の記録を改ざんしたり、実際には働いていない時間にも残業代が支払われたりする不正が行われているケースがあります。

これらの問題を防ぐためには、以下のような平時における体制構築が有効です。

  • デジタルフォレンジックツール等の導入: デジタルフォレンジックツールの導入により、メールやパソコンのログなどを分析することで、ハラスメントや残業時間の不正の証拠を収集・保全することができます。デジタルフォレンジックツール以外にも、メールの監視ツールやパソコンのログ取得ツールなど、不正行為の防止に役立つツールがあります。これらのツールを組み合わせて活用することで、より効果的な対策を講じることができます。
  • 内部統制の強化: 残業時間の記録方法や、ハラスメントの報告・調査体制などを明確にすることで、不正を防止することができます。
  • 従業員への教育: ハラスメントや不正行為に関する研修を行い、従業員の意識を高めることが重要です。

①デジタルフォレンジックを活用した不正行為の証拠収集の実例

最後に、私が実際に担当したケースを紹介します。

ある企業で、従業員がサボっているという他の従業員からの報告を受け、懲戒処分を検討することになりました。その会社では、システム上でウェブサイトの閲覧履歴を一括管理しており、長期間にわたり閲覧履歴を記録していました。

そこで、当該従業員の閲覧履歴を分析したところ、業務と関係ないウェブサイトへのアクセス時間が非常に長時間にわたっていることが判明しました。このウェブサイトの閲覧履歴を証拠として、会社は従業員に対して懲戒処分を行うことができたわけです。

フォレンジック調査ならTMIP&S

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