第三者委員会とデジタル・フォレンジック〜企業の不祥事調査について解説

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1.企業の不祥事における内部調査と外部調査

企業の不祥事が発覚した場合、経営層はまず事実関係を把握し、害悪の発生を止めることに努めます。しかし、不祥事からの企業価値回復には、その原因・背景分析と再発防止策の策定が不可欠です。原因・背景分析のために必要な調査には、内部調査と外部調査がありますが、それぞれのメリット・デメリットは次のようになります。

内部調査のメリット

  • 調査対象企業への理解が深い
  • 調査の迅速性・簡便性
  • 調査者の人選の容易さ
  • 企業風土への影響が少ない
  • レピュテーションリスクの低減

内部調査のデメリット

  • 調査者が既知の事実にとらわれやすい
  • 調査結果の信頼性への懸念
  • 企業都合の調査になりやすい

外部調査のメリット

  • 調査の独立性・中立性
  • 客観的な視点からの調査
  • 説明責任履行の強化

外部調査のデメリット

  • 調査の複雑性・時間的制約
  • 弁護士費用・調査費用

近年、企業不祥事の調査においては、外部調査、第三者委員会による調査が期待されています。第三者委員会は、企業外部の委員で構成され、調査の独立性・中立性を担保することができます。しかし、中には「御用委員会」と呼ばれるように、形式的な調査に留まったり、企業の経営陣に配慮した結果となったりするケースも見られます。

企業不祥事の調査には、内部調査と外部調査のそれぞれにメリット・デメリットがあります。重要なのは、それぞれの調査方法の特徴を理解した上で、状況に応じて適切な調査方法を選択することです。

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2.第三者委員会とは

第三者委員会とは、企業等において、不祥事(犯罪行為、法令違反、社会的非難を招くような不正・不適切な行為等)が発生した場合及び発生が疑われる場合において、企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策等を提言するタイプの委員会をいいます。

第三者委員会は、すべてのステークホルダーのために調査を実施し、その結果をステークホルダーに公表することで、最終的には企業等の信頼と不祥事の真因を除去し、正常な企業経営を回復することを目的とします。

企業不祥事が発生した場合、調査を行い原因究明と再発防止策の提示を行うことは、社内調査と第三者委員会による調査いずれにおいても共通しています。しかし、第三者委員会は企業から独立しているという決定的な違いがあります。

この独立性とは、委員が企業から独立しているだけでなく、調査方針の決定、報告書の起案・公表権が第三者委員会に専属していることを意味します。特に重要なのは、公表権です。企業が公表を望まない事実であっても、必要と判断すれば報告書に記載し、公表する必要があります。

この独立性は、企業の短期的利益ではなく、ステークホルダー全体の利益、つまり企業価値回復のために重要です。仮に第三者委員会が企業に従属し、企業の利益のみを追求すれば、企業価値の回復は期待できません。

このように、外部調査の中でも、公正な調査が行われる点に第三者委員会の有用性があります。適切な第三者委員会を設置した企業は、適切な不祥事対応を行い、必要な説明責任を果たしたと評価されます。

3.第三者委員会を設立すべき事案

企業不祥事の調査において、第三者委員会の設置が検討されるケースは様々です。一般的には、取締役ら経営陣が不祥事に関与した場合や、不祥事の社会的影響が甚大な場合などが想定されます。

さらに、そもそも内部調査では構造的に説明責任を十分に果たせないため、企業に説明責任が求められる場合には、外部調査によることが適切であり、外部調査のベストプラクティスが第三者委員会であることから、企業不祥事の調査では、すべて第三者委員会の設置が適切であるとも言えます。

また、説明責任を果たすために第三者委員会を設置すべきという議論は、上場会社にも非上場会社にも妥当します。上場会社はステークホルダーが多く、企業の影響力が大きいため、より高度な説明責任が求められます。

一方、非上場会社は市場規制に服していないため、日頃から説明責任を果たすための活動が行われていない場合があります。しかし、不祥事による企業価値毀損やステークホルダーへの損失は共通しており、説明責任を果たすことは依然として重要です。

もちろん、すべてのケースにおいて多人数の委員が関与する大規模な第三者委員会が必要なわけではありません。企業規模や不祥事の程度に応じて、小規模な第三者委員会でも有効です。

企業規模や不祥事の程度に応じて、適切な規模の第三者委員会を設置することが重要です。

4.第三者委員会に関する日弁連のガイドライン

企業の不祥事の調査において、第三者委員会は重要な役割を果たします。しかし、従前の第三者委員会の中には、杜撰な運用が見られるケースもありました。

このような状況を受け、日弁連は「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(以下「ガイドライン」という)を策定しました。ガイドラインは、第三者委員会の在り方、運営、報酬等について指針を示すものであり、多くの企業や第三者委員会のメンバーにとって重要な指針となっています。

ガイドラインでは、第三者委員会の設置目的、委員の選任、調査方法、報告書の作成、報酬等について定められています。特に重要なのは、以下の点です。

  • 第三者委員会は、企業から独立して調査を行う必要がある。
  • 調査は、徹底的に行い、事実関係を正確に把握する必要がある。
  • 報告書は、客観的で中立的な内容である必要がある。
  • 委員の報酬は、透明性のある方法で決定する必要がある。

ガイドラインは、第三者委員会の質を向上させ、企業不祥事の調査における透明性を確保するために重要な役割を果たしています。

ガイドラインはあくまでも指針であり、法的な拘束力はありません。そのため、ガイドラインに沿わない第三者委員会も存在します。しかし、ガイドラインに沿った第三者委員会を設置することは、企業不祥事の調査における信頼性を高めるために重要です。

5.第三者委員会を設置する際のポイント|ガイドライン概要|

(1)第三者委員会の活動

  • 第三者委員会は、企業等で不祥事が発生した場合、調査を行い、事実認定、評価、原因分析を行うこと。
  • 調査対象は、不祥事の経緯、動機、背景、類似案件、内部統制、コンプライアンス、ガバナンス、企業風土等に及ぶこと。
  • 事実認定は、証拠に基づき客観的に行い、必要に応じて灰色認定や疫学的認定も行うこと。
  • 事実の評価と原因分析は、法的責任だけでなく、自主規制、CSR、企業倫理の観点からも行うこと。

(2)説明責任

  • 第三者委員会は、調査結果(調査報告書)を原則として遅滞なく関係するステークホルダーに開示すること。
  • 企業等は、調査スコープ、開示先、開示時期を第三者委員会設置時に明らかにすること。
  • 企業等が開示をしない場合は、その理由を明らかにする必要があること。

(3)第三者委員会の独立性、中立性

  • 第三者委員会は、企業等から独立した立場で、中立・公正、客観的に調査を行うこと。
  • 調査報告書の起案権は第三者委員会に専属すること。
  • 調査報告書には、企業等の現在の経営陣に不利な事実も記載すること。
  • 第三者委員会は、調査報告書を企業等に調査報告書提出前に事前開示しないこと。
  • 第三者委員会は、調査過程で収集した資料等の処分権を専有すること。
  • 委員には、企業等と利害関係を有する者は就任できないこと。

(4)企業等の協力

  • 企業等は、第三者委員会の調査に全面的に協力すること。
  • 企業等は、第三者委員会に対して、資料、情報、社員へのアクセスを保障すること。
  • 企業等は、従業員に対して、第三者委員会による調査への協力を義務付けること。
  • 企業等は、必要に応じて第三者委員会の調査を補助する事務局を設置すること。

(5)調査の手法の例

  • 関係者へのヒアリング
  • 書証の検証
  • 証拠保全
  • 統制環境等の調査
  • 自主申告者に対する措置
  • 第三者委員会専用のホットライン
  • デジタル・フォレンジック調査

5.第三者委員会とデジタル・フォレンジック

近年、企業不祥事の調査において、デジタルデータの分析が重要になってきています。第三者委員会は、不正行為の調査において、デジタル・フォレンジックの専門家を積極的に活用する必要があります。

(1)デジタル・フォレンジックとは

デジタル・フォレンジックとは、パソコンやスマートフォンなどの電子機器に保存されたデータを分析・復元する技術です。不正行為の調査においては、企業内部の電子メールや情報端末に保存されたデータが重要な証拠となる場合があります。しかし、不正行為を行った者はデータを削除するなどして証拠隠滅を図ることも多いため、デジタル・フォレンジックの専門家による調査が必要となります。

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(2)第三者委員会とデジタル・フォレンジック

デジタル・フォレンジックは、パソコンや携帯電話等の電子機器に保存されたデータを分析・復元する専門技術ですが、第三者委員会は、不正行為の調査において、デジタル・フォレンジックを活用することで、より詳細で正確な事実認定を行うことができます。

不正行為を行っている当事者は、証拠となるデータを削除し、証拠隠滅をしようと試みるため、第三者委員会の担当者だけで調査を行うのは困難です。デジタル・フォレンジックの専門業者であれば、削除されたデータも含めて、幅広いデータを分析することができます。

デジタル・フォレンジックは専門的な技術が必要であり、第三者委員会は、調査対象となる不正行為の概要を的確に把握した上で、適切な検索条件を設定する必要があります。また、AIを活用することで、分析の精度向上や処理時間の短縮が可能となる場合があります。

日弁連ガイドラインにおいても、デジタル・フォレンジックの重要性が指摘されており、「第三者委員会は、デジタル調査の必要性を認識し、必要に応じてデジタル調査の専門家に調査への参加を求めるべきである。」と明記されています。

第三者委員会は、デジタル・フォレンジックを活用することで、より効果的な調査を行うことができます。調査対象となる不正行為の概要を事前に把握し、適切な専門業者を選定することが重要です。

企業不祥事は、企業の社会的信頼を大きく損ない、経営の存続を危うくする可能性があります。近年、企業不祥事の調査において、デジタルデータの分析が重要になってきており、第三者委員会もデジタル・フォレンジックを活用するケースが増えています。

今回のコラムでは、企業不祥事調査における第三者委員会とデジタル・フォレンジックの重要性を解説しました。

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