近年、急激に発達しているAI。特にChatGPTをビジネスに活用する動きが活発になる中で、弁護士もAIを無視できなくなってきました。そこで今回は、TMI総合法律事務所の中でもAIやデータ分野で活躍するメンバーにAIやChatGPTについて対談してもらいました。
弁護士の法律業務とChat GPT
森嶋:弁護士の仕事でChatGPTを使ってますか?
大井:弁護士業務でChatGPTを使用することは、あまり無いですね。
クライアントからChatGPTに関するご相談を頂くことが多いです。特にクライアントがChatGPTを使用した新規事業をどのように展開しているのか、また、OpenAIの利用規約の内容やプライバシーポリシーについてのご相談が多いです。
そのようなご相談を受ける中で、OpenAIのブログを読み込むことは、非常に有用です。OpenAIのブログの中には、セキュリティの仕様だったり、新しい機能のリリース情報が記載されているので、必読だと思っています。ただ、大井の普段の弁護士業務として、ChatGPTを活用しているかと問われると、そこまで活用はしていませんね。
関連書籍
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柴野:私も法律業務でChatGPTは、あまり使ってないです。
ただ、クライアントからAIに関するご相談を多く頂くので、大井弁護士と同じく、ChatGPTに何ができるのかを把握するために実物を使ってみたりしています。
例えば最近だと、セミナーの資料作成に使いましたね。先日、リーガルテックについてセミナーで講演しましたが、資料を作成する際に「リーガルテック」の定義はどこにも無かったんですね。
法律のどこかに記載があるわけでもないですし。世の中で「リーガルテック」がどのように言われているか調べるためにChatGPTに聞いてみました。それなりに満足できる返答があって、セミナーでも披露しました。もちろん、ChatGPTからの回答だとセミナー受講者に伝えましたよ(笑)。
他にも「業務委託契約書のポイントは何ですか?」とChatGPTに質問したところ、なかなか良い返答があったのは印象的でした。
鈴木:私もお二方と同じで日常的に法律業務でChatGPTを使ってないです。ただ、やはりクライアントからChatGPT関連のご質問を頂くことはありますし、自分自身も興味がある分野なので、有料プランを契約して試しに使ってますね。
法律業務とAIの未来
森嶋:皆さんChatGPTを試しに使っているわけですね。今後、弁護士業務でChatGPTを利用するシーンは、増えそうですか?
大井:いくつか条件をクリアしないとChatGPTを弁護士業務で本格的に使えないと思います。
まず、学習素材のデータが全く足りていない。特に裁判例、判決文ですね。日本の場合、全判決文がインターネット上で公開されていないので、全判決文のデータベース化とAIに学習させることが重要だと思います。
もう一つは、文献ですね。現在でも法律文献のサブスクリプションがありますが、出版されている文献の数と比べると、まだまだ少数にとどまっています。こちらも多くの法律文献をAIに学習させることができれば、精度の高いリサーチができるようになると考えてます。
柴野:弁護士業務と言っても多岐に渡るので、1〜2年目、また3〜4年目と年次が上がれば業務内容も変わってきます。初歩的な調査の案件もあれば、深掘りが必要な調査案件もあります。
また、不祥事対応だと関係者からヒアリングをして、議事録をまとめる作業などもある。あるいは、裁判書面の作成などもある。
ChatGPTを実際に使ってみて感じたことは、リサーチの前段階で、例えばアイデア出しや壁打ち相手としては、有効だということですね。一方で、0から文書を作成することは、苦手としていて、まだまだ「人間」の弁護士が頑張らないといけない部分だとも感じましたね。
森嶋:今回の対談で一番若手の鈴木先生は、いかがですか?
鈴木:若手なりの視点は無いかもしれないですけど(笑)
弁護士の業務は、機密情報が多いので、クライアントからお預かりしている機密情報をChatGPTに入力するのは、慎重に検討すべきだと思ってます。
ただ、機密情報を入力しなくてもChatGPTの使い道はあると感じていまして、何か新しい分野についてリサーチをする際にブレスト相手としてChatGPTを使うことは可能だと思います。
一方、細かい話だと正確性や最新性の部分で問題があると思います。というのも以前、ChatGPTに相続に関する司法試験的な問題を質問してみましたが、間違ってました。ChatGPTに「間違ってませんか?」と再質問すると「申し訳ございませんでした。」とちゃんと訂正はしてくれましたが(笑)この経験からもChatGPTの回答をもとに法的アドバイスをすることは、まだ難しいと感じました。
森嶋:なるほど。今回は、AI分野に精通していて、最前線で法律業務をされている大井先生、柴野先生、鈴木先生にお話が伺えて、貴重な機会になりました!ありがとうございました!また今後も対談をお願いします。
TMIプライバシー&セキュリティコンサルティング 代表
TMI総合法律事務所 パートナー弁護士
クラウド、インターネット・インフラ/コンテンツ、SNS、アプリ・システム開発、アドテクノロジー、ビッグデータアナリティクス、IoT、AI、サイバーセキュリティの各産業分野における実務を専門とし、個人情報保護法に適合したDMP導入支援、企業へのサイバーアタック、情報漏えいインシデント対応、国内外におけるデータ保護規制に対応したセキュリティアセスメントに従事。セキュリティISMS認証機関公平性委員会委員長、社団法人クラウド利用促進機構(CUPA)法律アドバイザー、経済産業省の情報セキュリティに関するタスクフォース委員を歴任する。自分達のサービスがクライアントのビジネスにいかに貢献できるか、価値を提供できるかに持ちうる全神経を注ぐことを信条とする。
TMI総合法律事務所 パートナー弁護士
慶應義塾大学法科大学院 非常勤教員(知的財産法務ワークショップ・プログラム)
知的財産法、情報の保護に関する法分野、Eコマースに関する法分野を専門としており、IT、インターネットビジネス、エンタテインメント、広告、メディアに関する裁判、法律相談等を多く扱う。一般社団法人外国映画輸入配給協会理事、デジタル庁技術検討会議ガバメントソリューションサービス タスクフォース専門委員、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授等も務める。近時の主な著書として、「AIDCプラットフォームにおけるデータ提供契約に関する報告書」(2022年一般社団法人AIデータ活用コンソーシアム)、「ヘルスケアビジネスの法律相談」(2022年青林書院)、 「個人情報管理ハンドブック(第5版)」(2023年商事法務)等がある。
TMI総合法律事務所 パートナー弁護士
2012年弁護士登録。個人データの利活用や取引に関する法律問題を幅広く扱っており、大手広告配信事業者への出向経験を活かし、特にデジタルマーケティングの分野の案件を多く扱う。日本の個人情報保護法のほか、CCPAやGDPRを中心に海外法令に関するご相談にも対応。また、IT企業に関するM&AやJV案件を多数手がける。カリフォルニア州弁護士。CIPP(E/US)取得。