【コラム】リテールメディア解説

~TMIプライバシー&セキュリティニュース7月号より~
デジタルマーケティングの領域の新潮流「リテールメディア」について実例を交えながら、大井哲也先生に解説してもらいました。




 はじめに

 「リテールメディア」という言葉は、デジタルマーケティング領域の方々以外は、あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、「リテール=小売」と「メディア」を組み合わせた言葉です。




 Amazonの例

 例えば、Amazonのウェブサイトは、ECサイトではありますが、多種多様な商品を紹介するある種のメディアの側面も有するわけです。我々消費者も含め、数多くの人々が日々AmazonのECサイトにアクセスをします。アクセスした消費者の閲覧履歴などの消費者の情報を集めてECサイトに適切な広告を掲載します。サイトにアクセスしている消費者は、まさに今、商品を購入しようと商品を比較検討している最中の購買意欲が高い人々ですので、これらの消費者への広告は、高いコンバージョン率が期待できます。このようにリテールを担う事業者が運営しているメディアのことを指して、「リテールメディア」という言葉を使っています。



 少し話はそれますが、AmazonはそのECサイト内で人気の高い商品を中心にPB(プライベート・ブランド)として商品開発をし、販売したりもしています。これはECプラットフォーマー自身が、出店企業の購買履歴を活用している例になります。ただ、出店企業の情報を使い、Amazonの莫大な資金力を使って安価で競争力の高い商品を作ってしまうと、出店企業のビジネス機会を圧迫しかねないので、両者は利益相反の面もあり難しい問題もあります。




 ウォルマートの例

 もう1つ、アメリカでのリテールメディアの成功例としてウォルマートを紹介します。ウォルマートは、ご存じの方も多いと思いますが、世界最大級の小売り・スーパーマーケットチェーンです。ウォルマートでは、購買履歴にID(顧客の個人情報)を紐づけた「ID-POS」というものを使用しています。このID-POSを使うことによって「誰が」「いつ」「何を買ったか」などが購買履歴として把握できるので、個人情報と紐づいた購買履歴が大量にウォルマートに集約されます。ID-POSにより集まった膨大な購買履歴はCDP(=カスタマー・データ・プラットフォーム)の形で大量にプールされます。この購買履歴を解析することで、顧客の属性・セグメントを割り出し、この属性・セグメント情報を利活用して広告出稿に利用するというわけです。これをターゲティング広告と言います。リテールメディアで重要なポイントは、この情報を利用して広告を出稿するのは小売(この例ではウォルマート)ではなく、小売事業者に商品を提供しているメーカーだという点です。この仕組みをリテールメディアと呼んでいます。





 日本でもツルハドラッグが

 ここまでアメリカ企業の話をしてきましたが、日本でもツルハドラッグがリテールメディアを展開しています。同社では、会員カードやアプリを発行することにより消費者の属性とともに購買履歴を収集します。この情報をアメリカの例と同じようにCDPの形でプールしておきます。ドラッグストアは、薬だけではなく、食料品、日用品、雑貨、健康食品など広い商品ラインナップがありますので、納入しているメーカーの業態もかなりのバリエーションになります。メーカーからすると消費者に近い店舗から得られる消費者の属性データや購買履歴は非常に価値が高いものになります。ツルハドラッグでは、このメーカーが欲っするデータを使って、メーカーに対する広告事業を行っているというわけです。




 最後に

 今回は、リテールメディアについて、解説してきました。これまでTwitter、Facebook、Google、InstagramなどのSNS事業者が持っているユーザーデータを使って、デジタルマーケティング市場は大きくなりましたが、今後は小売企業がメインプレーヤーになるという新しく大きな波が来ており、新規の企業参入により広告業界はますます面白くなっていくと期待しています。