
2024年11月8日(金)に開催されたセミナーをコラム化した記事です。アーカイブセミナー本編では、本コラムでは記載していない「質問回答&パネルディスカッション」も収録していますので、是非お申し込みください。
データ利活用のビジネスと法務 書籍のご紹介
事業者と法律家の双方の視点から詳解した決定版。個人情報保護などの法規制からオンライン広告、コネクティッドカー、医療等のビジネスの潮流までを解説。生成AIにも言及…….詳細はこちら
「データ利活用のビジネスと法務」出版記念シリーズセミナー
第3回 AIとビッグデータ
<セミナー概要>
前半の20分では、書籍「データ利活用のビジネスと法務」第4章の内容を解説し、後半はお申し込みの皆様から頂いたご質問にパネラー陣が回答しつつ、ディスカッションを行います。
<無料>
TMIP&S コラム記事一覧
記事や動画の一覧は、こちらからご覧ください…..一覧を見る
目次
Ⅰ.開発・学習段階でのデータの利用(プロンプトとしての入力を含む。)
まず初めに、開発・学習段階におけるデータの利用について説明します。
ここで「プロンプトとしての入力を含む。」としているのは、プロンプトと呼ばれる、AIモデルへの入力データのことです。つまり、開発学習段階にプロンプトとしてデータを利用する際に生じる問題についても考えます。
データがどの法律によって保護されるかによって、発生する問題は異なります。それぞれの法律ごとに、どのような問題が生じるのかを解説していきます。
(1)データが著作物か否か
まず初めに、利用しようとするデータが「著作物」に該当するかどうかという点について確認する必要があります。
著作権法2条1号によれば、著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義されています。例としては、小説等の言語、音楽、絵画等の美術作品、映像、写真、プログラム等が該当し得ることになります。
これらの著作物を、AIの開発や学習に利用する場合、著作権者の許可なく利用できるのかという点が大きな問題となります。
この点については、後で著作権法第30条の4を詳しく解説します。
(2)データが個人情報か否か
次に、データが個人情報に該当するかどうかという点について考えてみましょう。
個人情報とは、個人情報保護法で保護される、特定の個人に関する情報のことです。個人情報を利用する場合には、その利用目的をあらかじめ明確にしなければなりません。
そこで問題となるのが、企業が保有する個人情報を、本人の同意を得ずに、AIの開発や学習に使用できるかという点です。
一般的に、企業が保有する個人情報は、その利用目的の範囲内で利用する必要があります。そのため、自社のプライバシーポリシーを確認し、AIの開発や学習が利用目的に含まれているかを確認する必要があります。
(3)データが営業秘密の場合はどうか
次に、データが営業秘密である場合について考えてみましょう。営業秘密とは、不正競争防止法で定義されるように、秘密管理性、非公知性、有用性の3つの要件を満たす情報です。この営業秘密を、開発や学習段階、あるいはプロンプトとして入力する際に、許諾なく使用して良いのかという問題が生じます。
自社の営業秘密を利用する場合であれば、会社の情報セキュリティ規定やハンドブックに従った対応が必須です。通常、従業員が自社の営業秘密を利用することは不正競争防止法違反には該当しませんが、学習過程でデータが漏洩するリスクは常に存在します。そのため、自社の営業秘密を開発や学習に利用する際には、このリスクを十分に認識し、適切な対策を講じる必要があります。
(4)データが他者の秘密情報の場合、秘密保持義務を負うか否か
4点目として、データが他者の秘密情報の場合、秘密保持義務を負うかどうかという点が挙げられます。
この点については、著作権法や個人情報保護法、不正競争防止法といった特定の法律が直接的に適用されるわけではありません。しかし、契約によって秘密保持義務が課されている場合は、その契約内容に従う必要があります。
つまり、他者の秘密情報を利用する場合、その情報を入手した際の契約書を詳細に確認し、契約に定められた範囲内で利用することが必要です。契約内容に違反した場合には、秘密保持義務違反に問われる可能性があります。
Ⅱ.著作物の利用と著作権法30条の4
次に、先ほど申し上げた著作権法30条の4という規定のお話になります。こちらは、いわゆるAIの第3次ブームが起きて、後に平成30年(2018年)に著作権法が改正されまして、機械学習で他人の著作物を許諾なく使うということが、一定の範囲内でできるようになりました。
(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第30条の4
著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、
その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第47条の5第1項第2号において同じ。)の用に供する場合
三 前2号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあっては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合
同条のポイントのひとつは、「その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」という部分です。これは「非享受目的」と呼ばれ、著作物を鑑賞したり、楽しむといった一般的な利用目的ではなく、他の目的で利用する場合を指します。
非享受目的の場合、必要と認められる範囲内で、いずれの方法によるかを問わず、利用することができるとされています。ただし、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」という例外規定があります。
同条が適用されるのは、同条に規定された1号から3号の場合ですが、AIの機械学習に該当するのは、2号の「情報解析」です。情報解析とは、大量のデータから、その構成要素となる言語、画像、音声などの情報を抽出し、分析することです。平成30年の改正では、この情報解析を目的とした著作物の利用を認めることで、AIの開発を促進することが目的でした。
しかし、近年登場した生成AIのように、プロンプトとして著作物を入力するような利用方法は、当時の改正では想定されていませんでした。そのため、文化庁は今年3月に、生成AIにおける著作物の利用に関するガイドラインを発表しています。
同ガイドラインp.37においては、以下のように規定されており、生成 AI に対する入力に用いた既存の著作物と類似する生成物を生成させる目的で当該著作物を入力する行為(プロンプト)は、享受目的有りとして、著作権法30条の4が適用されず、違法となる可能性があるとしていることに注意が必要です。
【同ガイドラインp.37から引用】
ク 生成指示のための生成AIへの著作物の入力について
生成AI に対して生成の指示をする際は、プロンプトと呼ばれる複数の単語又は文章や、画像等を生成 AI に入力する場合があり、入力に当たっては、著作物の複製等が生じる場合がある。
この生成AIに対する入力は、生成物の生成のため、入力されたプロンプトを情報解析するものであるため、これに伴う著作物の複製等については、法第 30 条の4の適用が考えられる。
ただし、生成 AI に対する入力に用いた既存の著作物と類似する生成物を生成させる目的で当該著作物を入力する行為は、生成AIによる情報解析に用いる目的の他、入力した著作物に表現された思想又は感情を享受する目的も併存すると考えられるため、法第30条の4は適用されないと考えられる。
「AI と著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日 文化庁)https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf
Ⅲ.生成物を利用する場面
2つの段階に分けて考えるのが大事だとお話しましたが、2つ目の段階は、生成物を実際に利用する場面で発生する問題です。開発・学習段階で入力する際に問題となる4つの項目と基本的に対応する形で、生成物を利用する場面でも問題が出てきます。
(1)著作権侵害の問題
まず1つ目として、著作権侵害の問題があります。生成AIによって生成されたコンテンツを利用する際、それが著作権侵害に該当するかどうかを慎重に検討する必要があります。
著作権侵害が成立するためには、生成されたコンテンツが既存の著作物と同一又は類似しているという要件の充足が必要です。つまり、生成されたコンテンツが、誰かの著作物を無断でコピーしたものと判断される可能性があるということです。そのため、生成されたコンテンツを利用する前に、既存の著作物と比較し、類似性がないかを確認することが重要です。
さらに、著作権侵害を判断する上で重要な要素として、「依拠性」という概念があります。これは、創作活動において、他の著作物から影響を受けているかどうかを指します。もし、ある作品が完全に独自に創作されたものであり、他の作品との類似性が偶然の一致に過ぎない場合、たとえ類似性が認められたとしても、著作権侵害とはなりません。
生成AIによるコンテンツ生成においては、この「依拠性」の判断が特に複雑になります。生成AIは、学習データに含まれる膨大な量の情報を基にコンテンツを生成するため、どの程度がオリジナルの創作であり、どの程度が学習データからの影響なのかを明確に区別することが難しいからです。
文化庁が発表した前述のガイドラインp.33ページ以降に、生成AIによるコンテンツ生成における著作権問題について詳しく解説されていますので、興味のある方はご参照ください。
「AI と著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日 文化庁)33頁以下。https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf
(2)個人情報保護法違反の問題
2つ目に、個人情報保護の問題があります。生成AIが作った文章の中に、特定の人だと分かるような情報が含まれている場合、その情報を使って良いのかどうかが問題になります。この場合、個人情報取得の適合性について疑義がありますので、特に使う必要がないならば、そのような個人情報の使用は控えるのが得策と考えられます。
(3)不正競争防止法違反の問題
3つ目に、不正競争防止法違反の問題があります。生成AIが作成した情報に誰かの営業秘密など秘密情報らしきものが出てきてしまったという場合には、やはり取得の適合性が問題にはなり得ますので、必要がないならその情報の利用は控えるのが得策と考えられます。
どうしても使いたいという時には、専門家にご相談いただくのが良いと思います。
(4)偽情報の可能性があるという問題、その他
4つ目に、生成された情報が偽情報である可能性があります。生成AIは、学習データに基づいて情報を生成するため、その学習データに誤った情報や偏った情報が含まれている場合、生成される情報も誤っている可能性があります。
そのため、生成された情報を利用する際には、その情報の正確性を必ず確認する必要があります。特に、重要な意思決定に利用する場合には、複数の情報源から情報を収集し、内容の真偽を慎重に検証することが重要です。
また、生成された情報が、他者の権利を侵害している可能性も考えられます。例えば、商標権は、商品やサービスを識別するための標識を保護する権利です。生成AIが生成した商品名やサービス名が、既に他の企業によって商標登録されている場合、その商標を使用すると商標権侵害となる可能性があります。
そのため、生成AIが生成した名称を商標として利用する場合には、事前に商標検索を行い、他の企業によって既に登録されていないかを確認する必要があります。
このように、生成AIによって生成された情報を利用する際には、情報の正確性、権利の侵害、倫理的な問題など、様々な側面から慎重に検討することが重要です。
Ⅳ.さいごに
AI開発・学習には、著作物、個人情報、営業秘密といった様々なデータが利用されます。これらのデータの利用は、法律によって厳しく規制されており、特に生成AIの登場により、著作権に関する新たな問題が生じています。
生成AIを利用する際には、著作権侵害、個人情報漏洩、虚偽情報の生成といったリスクを常に意識し、法的専門家のアドバイスを求めることが重要です。また、生成された情報の正確性を検証し、適切な利用範囲を定める必要があります。
関連記事
日本企業も対応が必要な中国個人情報保護法をわかりやすく解説…..続きを読む
関連記事
【コラム】日本におけるPIA手続きを解説…..続きを読む
関連記事
匿名加工情報、仮名加工情報などデータ利活用に関わる「情報」の種類を分かりやすく解説…..続きを読む
海外データ保護法対応ならTMI
TMIプライバシー&セキュリティコンサルティングとTMI総合法律事務所では、海外データ保護法対応が可能です。
また、GDPR対応の法的サービスの領域は、プライバシーポリシーの作成、個人情報管理規程の作成、SCC及びDPAの作成などTMI総合法律事務所がサービス提供しております。
また、GDPRはじめ、世界各国の個人情報保護法対応の法的側面と技術的側面図をワンストップで提供しておりますので、世界各国の個人情報保護法対応を計画している企業の法務担当者・情報完了担当者の方は、お気軽にお問い合わせください。
TMIP&S コラム記事一覧
記事や動画の一覧は、こちらからご覧ください…..一覧を見る

TMI総合法律事務所 パートナー弁護士
慶應義塾大学法科大学院 非常勤教員(知的財産法務ワークショップ・プログラム)
知的財産法、情報の保護に関する法分野、Eコマースに関する法分野を専門としており、IT、インターネットビジネス、エンタテインメント、広告、メディアに関する裁判、法律相談等を多く扱う。一般社団法人外国映画輸入配給協会理事、デジタル庁技術検討会議ガバメントソリューションサービス タスクフォース専門委員、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授等も務める。近時の主な著書として、「AIDCプラットフォームにおけるデータ提供契約に関する報告書」(2022年一般社団法人AIデータ活用コンソーシアム)、「ヘルスケアビジネスの法律相談」(2022年青林書院)、 「個人情報管理ハンドブック(第5版)」(2023年商事法務)等がある。

TMIプライバシー&セキュリティコンサルティング 代表
TMI総合法律事務所 パートナー弁護士
クラウド、インターネット・インフラ/コンテンツ、SNS、アプリ・システム開発、アドテクノロジー、ビッグデータアナリティクス、IoT、AI、サイバーセキュリティの各産業分野における実務を専門とし、個人情報保護法に適合したDMP導入支援、企業へのサイバーアタック、情報漏えいインシデント対応、国内外におけるデータ保護規制に対応したセキュリティアセスメントに従事。セキュリティISMS認証機関公平性委員会委員長、社団法人クラウド利用促進機構(CUPA)法律アドバイザー、経済産業省の情報セキュリティに関するタスクフォース委員を歴任する。自分達のサービスがクライアントのビジネスにいかに貢献できるか、価値を提供できるかに持ちうる全神経を注ぐことを信条とする。

TMI総合法律事務所 弁護士
京都大学理学部にて原子核物理学を専攻し、マサチューセッツ工科大学スローンスクールにてファイナンス&応用経済学修士号を取得。日系大手証券会社と米国系インベストメントバンクにて長年金融デリバティブ部門でキャリアを積んだのち、TMI総合法律事務所に参画。個人情報その他のデータ関係の法務に専門性を有し、各国個人情報保護法に精通する。