IGDTAとは何か グローバル企業が注目する「グループ内データ移転契約」

企業活動のデジタル化が進む中で、個人データが国境を越えて移転される機会が急速に増えています。一方、各国の個人データ保護法令は個人データの越境移転規制を導入しています。これに伴い、企業は「どの国に」「どのような法的根拠で」データを移転しているのかを明確にして、各国法令を遵守する体制を整備することが求められています。こうした背景のもと、近年注目を集めているのが「IGDTA(Intra-Group Data Transfer Agreement:グループ内データ移転契約)」です。

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1. IGDTAの基本的な考え方

IGDTAとは、同一企業グループ内の各国現地拠点間で個人データを国境を越えて移転する際に、各社間の責任分担や保護措置を明確に規定するための契約のことをいいます。

例えば、EU一般データ保護規則(GDPR)では、EU域外への個人データの移転にあたって「適切な保護措置」を講じることが義務付けられています。日本のように欧州委員会の「十分性認定」を受けている国以外の国への移転については、通常、標準契約条項(Standard Contractual Clauses:SCC)を個人データの移転元と移転先の企業間で締結する必要があります。

しかし、グローバル企業では数多くの国や地域にグループ会社が存在し、それぞれ2当事者間契約として個別のSCCを締結することは、管理コストが高くつき非効率です。こうした非効率を解消するために、グループ企業全てを当事者にする形で多数当事者間契約として、またSCCを組み込んだ形で設計されるのがIGDTAです。すなわち、IGDTAは「企業グループ全体に共通するデータ移転契約」として機能し、データ移転の法的基盤をグローバルに統一する役割を果たします。

2. IGDTAが注目される理由

IGDTAが広く注目される理由は、法令対応の効率化にあると言えます。GDPRの越境移転規制のクリアランス要件のひとつがSCCの締結であることは前述しましたが、各国の個人情報保護法は、GDPRを参考に独自の要件を設ける形で整備が進んでおり、英国のUK GDPR、ブラジルのLGPD、インドのDPDP法など、越境移転に関する規定が次々と導入されています。こうした多様な法制のもとで、グループ全体で統一した契約体系を整えることができる点で、IGDTAは実務上の有効な手段となっています。

3. 導入にあたっての実務上の留意点

IGDTAの導入には、慎重な準備が必要です。グループ内でどのようなデータがどの国を経由して移転されているのか、その実態を正確に把握すること、すなわちデータマッピングを実施することが必要です。

そして移転対象データの性質、移転の目的、保存期間、アクセス権限といった実務的な要素を分析した上で、契約条項に反映させることが求められます。

また、安全管理措置を明文化し、各社が一定以上のデータ保護水準で運用できるようにすることも大切です。さらに、IGDTAは一度締結すれば終わりではなく、定期的な見直しが不可欠です。各国の法令が改正された場合には、契約内容をアップデートしていく必要があります。個人データ保護法令は日々変化しているため、柔軟な改定の仕組みを組み込むことが重要です。

4. IGDTAの持つビジネス的意義

IGDTAは単なる「法的防御のための契約」ではありません。むしろ、グループ全体でのデータガバナンスを確立し、データを安全かつ効率的に活用するための戦略的な仕組みといえます。

 生成AIやデータ分析の活用が進む現在、企業が国境を越えてデータを統合し、ビジネスに活用することは競争力の源泉となっています。その基盤として、IGDTAは法令遵守とデータ活用の両立を実現する重要な役割を担います。

5. まとめ

IGDTAは、企業グループ全体の個人データ移転を法的・組織的に支える仕組みです。データ保護の厳格化と国際取引の拡大が進む現代において、企業にとって欠かせないガバナンスツールになりつつあります。

今後は、法務部門やコンプライアンス部門だけでなく、経営層・情報システム部門が一体となり、IGDTAを活用した持続可能なデータ移転体制を整えることが重要です。

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