【セミナーコラム化】プラットフォーマーによるデータの囲い込み行為と競争法

2025年1月23日(木)に開催されたセミナーをコラム化した記事です。アーカイブセミナー本編では、本コラムでは記載していない「質問回答&パネルディスカッション」も収録していますので、是非お申し込みください。

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第5回 プラットフォーマーによるデータの囲い込み行為と競争法

<セミナー概要>

前半の45分では、書籍「データ利活用のビジネスと法務」第6章の内容を解説し、後半はお申し込みの皆様から頂いたご質問にパネラー陣が回答しつつ、ディスカッションを行います。

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目次

Ⅰ.はじめに

インターネット上で企業や個人がビジネスを行うための基盤として利用するソフトウエアやアプリケーションなどを構築・提供・運営する事業者をプラットフォーマーと呼びますが、本稿では、プラットフォーマーによるデータの囲い込み行為と競争法について解説します。

近年、欧米を中心にプラットフォーマーによるデータの囲い込み行為に対し、競争法に基づく規制が強化されています。2000年代以降、欧米の競争当局は、プラットフォーマーによる市場支配的地位の濫用行為や企業結合に対し、データの囲い込みに着目した調査や判断を行っています。

一方、日本においては、これまでデータ囲い込みに関する具体的な事例は多くありませんでした。しかし、平成30年に経済産業省、公正取引委員会、総務省が「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」を策定し、競争法に関して以下の2点を指摘しています。

  • デジタルプラットフォームの拡大と独占化・寡占化の傾向を踏まえ、事後規制としての独占禁止法の重要性が増している。デジタル市場の特性を踏まえた取り組みを進める必要がある。
  • データやイノベーションを考慮した企業結合審査、サービスの対価として自らに関連するデータを提供する消費者との関係における優越的地位の濫用規制の適用など、デジタル市場における公正かつ自由な競争を確保するための独占禁止法の運用と関連制度のあり方を検討する。

上記基本原則を踏まえ、日本においてもプラットフォーマーによるデータの囲い込み行為に対する規制の議論が進められています。

Ⅱ.海外における規制

民法上、契約自由の原則が定められているため、契約当事者は契約の内容を自由に決定することができます。つまり、各当事者が何が譲れないのかを踏まえて交渉を行い、きめ細かな取り決めを交わすことが可能です。

契約交渉では、各当事者が自社の利益を最大限に実現するために、自由な発想で様々な提案を行うことが重要です。そして、お互いの譲れない点をすり合わせながら、双方が納得できる契約を締結することが理想です。

(1)プラットフォーマーによるデータの収集行為ドイツ競争当局によるFacebook Inc.(現、Meta Platforms Inc.)に対する決定

まず、海外における規制について説明いたします。海外の規制で有名な事例としては、プラットフォーマーによるデータの収集行為が独占禁止法の問題として扱われた事件があります。ドイツの競争当局が、Facebook(現在はMeta Platforms)に対して、独占禁止法違反の決定を下した事件です。

この事件では、Facebook社が同社のSNSであるFacebookの利用について、同社のサービス条件に同意することを求めていました。そのサービス条件においては、Facebook社が利用者の個人データを加工できると定められており、同社はFacebook利用者が同社の他のサービス(例えばWhatsAppやInstagram)、あるいは第三者のウェブサイトを利用することによって作成される当該利用者のデータも収集し、Facebookのアカウントに統合していました。このサービス条件への同意の取り方が問題になった事件です。

2019年2月6日、ドイツ競争当局は、Facebook社の支配的地位(SNSで非常に高いシェアを有すること)に鑑みれば、同社のSNSの利用開始にあたってのサービス条件に対する利用者の同意は、同社の広範なデータ収集に対するいわゆる自由な同意(GDPRの6条1項(a)で定めた自由な同意)と解することはできないと判断しました。そして、GDPRに基づく欧州データ保護規制に違反し、ひいてはドイツ競争法の支配的地位の濫用行為に当たるとの決定を出しました。

この決定は2019年のもので、その後、Facebook側(Meta側)も争って裁判になっていましたが、2024年10月10日、Meta社が一定の措置を取ることに合意し、ドイツの競争当局の決定に対する訴訟を取り下げました。競争当局も決定を執行しないという形で、平和的に解決しました。

こちらは、2024年の10月10日に当局が発表した資料に掲載されている図ですが、今後、このようなことが可能になるというチャートです。「Maximum Data Protection Settings(最大データ保護設定)」と題されており、Facebookの利用者が、例えばMaps/Navigationやオンラインショップなど様々なサービスを利用する際に、それらのデータをFacebookアカウントに統合するかどうかを利用者自身が逐一同意・不同意を決定できることを示しています。

さらに、スマートフォン上などでも利用者が認識しやすい形で同意を求めるようにすることなどが、この決定書の資料には記載されており、そのような措置を講じること(利用者に同意の機会を与えること)を条件に、当局とMeta社との間で和解が成立しました。

(2)データの囲い込みが争点となった企業結合事例Microsoft/LinkedIn案件(2016年)

欧州では、プラットフォーマーが関わる企業結合について、いくつか注目すべき事例が出ています。その一つが、MicrosoftとLinkedInの案件(2016年)です。

この案件は、PC向けWindows OS市場及び関連ソフトウェア市場で有力な地位を有するMicrosoft社が、プロフェッショナルSNS市場において圧倒的な地位を有するLinkedIn社を買収したというもので、欧州委員会で審査されました。

欧州委員会は、本件買収により、Microsoft社が以下の行為を行うことによって、LinkedInの利用者基盤が拡大し、他のプロフェッショナルSNS市場への他社の新規参入が妨げられる、あるいは競争者が排除され、その結果、同市場におけるサービスの品質が低下する可能性があるのではないかという懸念を持ちました。

  1. LinkedInをすべてのWindows PCにプレインストールする。
  2. LinkedInをMicrosoft Officeに統合して、両者の利用者データベースを統合する一方で、LinkedIn社の競合他社にはMicrosoftのAPIへのアクセスを認めない。

結論として、2016年12月6日、欧州委員会はMicrosoftが一定の問題解消措置(是正措置)を取ることを条件に、本件買収を認めました。その措置は以下の通りです。

  1. PCメーカー及び販売業者がLinkedInをプレインストールしない自由を有すること
  2. 競合他社である他のプロフェッショナルSNSの現状のMicrosoft Officeとの互換性を維持すること
  3. 競合他社である他のプロフェッショナルSNSに対して、Microsoftの利用者データにアクセスするためのソフトウェア開発を可能にすること

これらの措置によって、LinkedInの競合他社を不当に排除しないことをMicrosoft社に約束させたということになります。

(3)データの囲い込みが争点となった企業結合事例Google/Fitbit案件(2020年)

もう1件、企業結合でGoogleとFitbitの案件があります。この案件は、後ほどご紹介しますが、日本の公正取引委員会でも審査されています。

欧州委員会では2020年に審査されました。Google社が健康及びフィットネスのウェアラブル機器などを販売するFitbit社の買収を企図した案件です。

Fitbit社が顧客の健康データを有していることから、Google社が当該データを取得することにより、オンライン広告サービス市場などにおける地位を一層高めて、競争が阻害されるかが問題となりました。健康データなどを利用して、Googleがオンライン広告でさらに強大になることが懸念されたのです。

欧州委員会は、具体的には、本件に対して以下のような懸念を示しました。

  1. Google社が、Fitbit社の顧客の健康データ及び当該データを開発する技術を取得することにより、オンライン広告市場サービス市場におけるGoogle社の競争者の参入・拡大を阻害するのではないか。
  2. Google社が、競争者によるフィットビットのAPIへのアクセスを制限するのではないか。
  3. Google社が、競争者のウェアラブル機器のアンドロイドスマートフォンとの相互接続性を阻害するのではないか。

最終的に2020年、欧州委員会はGoogle社がこれらの懸念に対して問題解消措置を取ることを前提に、本件買収を認めました。

(4)企業結合における事前届出基準の見直し(ドイツ)

ここまで欧州での主要な事件について触れましたが、これらの事件を踏まえて、データと競争法という点で、いくつかの制度の見直しや立法という流れが進んでいます。

ここでは、ドイツの企業結合における事前届出基準の見直しを取り上げます。

データを多く保有する企業の中には、無料サービスの提供部門におけるイノベーションによって有力な企業となっているものが少なくありません。売上高ベースでの企業結合の届出基準では、競争上重要な問題を引き起こし得る企業結合を捕捉できない可能性があります。

例えば、非常に良質なデータを多数持っているものの、まだ売上高が上がっていないような会社を買収する場合、従来の売上高をベースにした届出基準には該当しないことがあります。しかし、そのような買収を認めてしまうと、後々非常に競争上の問題が生じる可能性があります。

そのような状況を踏まえて、ドイツでは2017年に、買収の対価を1つの考慮要素とする以下の企業結合届出基準が導入されました。従来から売上高をベースにする届出基準はありましたが、それに加えてこちらの基準が導入されたということです。

  1. 企業結合全当事者の全世界売上高が5億ユーロを超えること
  2. 企業結合当事者のいずれかのドイツ国内売上高が2500万ユーロを超えるが、被買収企業を含む他のいずれの当事者のドイツ国内売上高も500万ユーロを超えないこと
  3. 買収の対価が4億ユーロをこえること、かつ
  4. 被買収企業がドイツにおいて相当程度事業活動を行っていること

4つの項目がありますが、特に③と④の項目によって、例えば売上高が少ないものの非常に高額な買収案件(キラー買収とも呼ばれます)を届出で捕捉できるようになりました。このような改正は、そのような買収案件を捕捉するために行われたものです。

(5)デジタル市場法(2023年施行)(Digital Market Act)

デジタル市場法(Digital Markets Act:DMA)というものが2023年に欧州で施行されています。

これは、オンライン仲介サービス、検索エンジン、SNS、ビデオ共有などの中核プラットフォームサービスを欧州域内で提供する事業者のうち、特に大規模な事業者としてゲートキーパーの指定を受けた事業者を対象として、以下のような義務を課す法律です。

  1. 個人の同意がないのに、中核プラットフォームから得た個人データをゲートキーパーが提供する他の事業又は第三者のサービスから得た個人データと結合してはならない。
  2. ビジネスユーザーが第三者オンライン仲介業者において、ゲートキーパーの中核プラットフォームとは異なる価格や条件で販売を行うことを禁じてはならない。
  3. 中核プラットフォーム経由で獲得したエンドユーザーに対して、ゲートキーパーの中核プラットフォームの利用の有無にかかわらず、ビジネスユーザーが契約を提案し、締結することを認めなければならない。

Ⅲ.日本における規制

以上が海外の規制に関する説明です。ここからは、日本における規制についてご説明します。

(1)近年の主たる規制

年月項目内容
R1.12.17公正取引委員会「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」デジタル・プラットフォーム事業者による個人情報等の取得又は利用においてどのような行為が優越的地位の濫用となるかを示した
R1.12.17公正取引委員会「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」、 「企業結合審査の手続に関する対応方針」 を改定競争上重要なデータが含まれる企業結合についての考え方等を示した。買収対価の総額が400億円を超える一定の企業結合につき公正取引委員会への任意の相談が望まれる旨を明らかにした
R3.2.1「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(デジタルプラットフォーム透明化法)施行「特定デジタルプラットフォーム提供者」に対して、取引条件等の情報の開示義務、手続・体制の整備義務、運営状況の報告義務等を課した(事前規制)

日本は、先ほど申し上げたように、平成30年に政府が「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」を発表し、そこからデジタルプラットフォームやデータについての議論が活発になってきました。その後の独占禁止法に関する主な規制としては、以下のものがあります。

まず、令和元年12月に、公正取引委員会が「デジタルプラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」というガイドラインを発表しました。

これは、デジタルプラットフォーム事業者が利用者個人の個人情報などを取得したり利用したりする場面において、優越的地位の濫用に当たる行為があり得るとして、具体的にどのような行為が該当するかを示したものです。典型的な例としては、規約などを同意なく一方的に変更したり、不利に変更したりする行為が優越的地位の濫用に当たり得るとされています。

次に、同じく令和元年12月、公正取引委員会が「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」と「企業結合審査の手続に関する対応方針」を改定しました。

改定された内容は、競争上の重要なデータが含まれる企業結合についての考え方を追記したことや、後ほど触れますが、買収対価の総額が400億円を超える一定の企業結合について、公正取引委員会への任意の相談が望まれることを規定したことです。これは、先ほどのドイツの届出基準の改正と同様に、売上高はさほど高くないものの、買収対価が400億円を超えるような案件を捕捉するための改正となります。

そして、令和3年2月には、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(デジタルプラットフォーム透明化法と呼ばれています)が制定されました。

この法律は、特定デジタルプラットフォーム提供者(一定の売上規模を有するデジタルプラットフォーム提供者)に対して、取引条件などの情報の開示や、各種手続き・体制の整備、運営状況の報告義務などを課しています。これは、何か法律違反(独占禁止法違反)がある前に、報告義務などを課すということで、事前規制とも呼ばれるものが導入されたものです。

(2)独禁法の問題を生じさせ得るデータの特徴

日本でデータと独占禁止法が議論される中で、独占禁止法の問題を生じさせ得るデータの特徴として、「ネットワーク効果」と「ロックイン効果」の2点を挙げることができます。

ネットワーク効果

ネットワーク効果には、直接ネットワーク効果と間接ネットワーク効果の2種類があります。

①直接ネットワーク効果

例えば、あるSNSの利用者が増えるほど、コミュニケーションを図ることのできる対象が増えて、当該SNSの便益が向上することを指します。

②間接ネットワーク効果

異なる利用者層間で発生するネットワーク効果を指します。例えば、ネットショッピングモールの場合、買い物をする一般消費者と出店する販売店という2つの側面があります。消費者が増えれば増えるほど出店者にとっても魅力的になり、出店者が増えるとそれが消費者にとっての魅力になるというように、2つの側面があるサービスの中でネットワーク効果が起こることを間接ネットワーク効果といいます。

ロックイン効果

プラットフォームの利用者が、当該プラットフォームに提供した情報を他のサービスに持ち出せないなどの事情を背景として、あるプラットフォームが市場支配力を有するに至る一方で、利用者は他の類似サービスへの切り替えが困難となることを指します。あるプラットフォームに情報提供したところ、他のプラットフォームに乗り換えようと思っても、なかなか容易に情報を持ち出せないというようなことが、独占禁止法の問題を生じさせ得ると指摘されています。

後ほど述べる事例では、まさにこのような事例が出てきます。

(3)データの収集・利用に関する行為

データの収集や利用に関する行為に関して、日本では優越的地位の濫用という観点から、以下の行為が問題行為として指摘されています。これらの行為は、冒頭でご説明したドイツのFacebook事件と、行為のタイプとしては類似点があります。

  1. デジタル・プラットフォーム事業者が、利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得すること
  2. 利用目的の達成に必要な範囲を超えて消費者の意思に反して個人情報を取得・利用すること
  3. 個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに個人情報を取得・利用すること
  4. 自己の提供するサービスを継続して利用する消費者に対して消費者がサービスを利用するための対価として提供している個人情報等とは別に追加的に個人情報等を提供させること

特に、プラットフォーマーが非常に大きい場合、利用者としては事実上そこを使わざるを得ない、あるいは取引条件が不利に変更されてもやめられないといった状況下では、このような行為は優越的地位の濫用として問題になる可能性があります。

(4)データ集積が問題とされた事案ZHD及びLINE株式会社の統合(企業結合事例R2-10)

次に、企業結合についてです。日本でも企業結合事例の中で、データの集積に関する論点が出てきています。

まず1つ目は、ZホールディングスとLINE株式会社の統合です。これは令和2年の事例になります。

データ関係で問題になったのは、コード決済サービスについてです。分かりやすく言うと、PayPayとLINE Payの話です。

市場シェア

サービス名平成31年4月順位令和元年9月順位令和2年1月順位
SBK・ZHDグループ約50%1位約50%1位約55%1位
NAVER・LINEグループ約25%2位約10%4位約5%5位

コード決済サービス:スマートフォン上の決済アプリを利用してバーコード又はQRコードの形式で記録された消費者の決済情報を電子的に読み取ることにより決済を行う手段を消費者及び加盟店に提供するサービス(ZHDのPayPayとLINEのLINE Pay

この統合が行われる際の、両社のコード決済サービスにおけるシェアは、公正取引委員会の資料によると、PayPayは50%あるいはそれを超えるシェアを持ち、LINE Payについては、シェアが徐々に下がっていたという状況でした。

この中で、公正取引委員会としては、コード決済事業を、消費者を需要者とする市場(消費者がコード決済を使う市場)と、加盟店を需要者とする市場(加盟店がコード決済を導入する市場)の両面があると指摘しました。その上で、統合会社グループが市場支配力を有する状況となる恐れを払拭することは困難であるとして、以下のデータ集積に関する懸念を示しました。

  1. 競争事業者が入手することのできるデータの量や範囲及び収集頻度と比べて、当事会社グループが競争上有利となり、コード決済事業における競争に影響を与える可能性は否定できない。
  2. 今後の市場の状況の変化に加えて、当事会社グループによる今後のデータの統合・ 共有・活用方法によっては、さらに当事会社グループの事業能力が向上する可能性があることは否定できない。

結論として、事業者側が是正措置を講じることで問題が解消されました。

その内容は、本件行為後3年間、コード決済事業に関連するデータの利活用に関する事項を報告し、公正取引委員会よりコード決済事業における競争制限の恐れ等の指摘を受けた場合、公正取引委員会との間で協議し、対応策を検討するというものです。この条件のもとで、この統合が認められました。

(5)データ集積が問題とされた事案GoogleのFitbit買収(企業結合事例R2-6)

次に、GoogleのFitbit買収についてです。これは欧州でも問題になりましたが、日本でも公正取引委員会が審査を行っています。

右側の図と文章を見ていただくと、まず図の中央付近に横線が引かれており、その上に「健康関連データベース提供事業(川上事業)」とあります。これがGoogleとFitbitがそれぞれ提供していたものです。

その線の下には、「腕時計型ウェアラブル端末用健康関連アプリ提供事業(川下事業)」とあり、これはGoogleフィットアプリが提供していたものです。

本件統合が成立すると、統合会社グループが川上市場(健康関連データベース提供事業)に関して、統合会社グループ以外の健康関連アプリ提供者へのWeb APIを通じたアクセスを停止する、あるいはアクセス条件を不利にすることで、統合会社グループと他の健康関連アプリ提供者を差別的に取り扱う可能性があるという懸念が示されました。

図で言うと、中央に赤いバツ印が付いている部分です。要は、このデータベースを自社のアプリ提供事業にはもちろん使うものの、他の健康関連アプリ事業を行っている企業には提供しないことで、競合他社を排除するということです。このデータベース提供事業(川上市場)で非常に大きな存在になるため、このような川下(腕時計型ウェアラブル端末用健康関連アプリ提供事業)の競合他社に対する供給拒否が、独占禁止法上問題になるという指摘がなされました。

以上の状況を踏まえて、Googleグループは、統合会社グループが提供するWeb APIを通じて、Googleグループ以外の健康関連アプリ提供者に対し、利用者である一般消費者の同意を条件として、一定の健康関連データを10年間無料で提供するという措置を講じることによって、本件買収が認められました。

(6)エムスリー株式会社・株式会社日本アルトマークの統合(企業結合事例R1-8)

もう1つ事例を紹介します。エムスリーと日本アルトマークの統合という案件で、令和元年の事例です。

日本アルトマークは、医療情報のデータベースを提供する事業を行っており、他に同じサービスを提供しているところがない、つまり当時日本で唯一の事業者でした。

一方、エムスリーは、このデータベースを活用する医薬品情報提供プラットフォーム運営事業者、いわゆるプラットフォーム事業を行っている事業者であり、医療情報データベースを利用してプラットフォーム事業を行っていました。そして、シェアが75%あったということで、非常に強い事業者でした。

そして、この2社が統合することについて、公正取引委員会は問題があるという判断をしました。

公正取引委員会の指摘としては、日本アルトマークの提供するデータベース(川上市場)が、川下市場における事業運営に不可欠であり、川上市場における日本アルトマークの競合他社が同等のデータベースを提供することは容易ではないことを踏まえると、両社の統合においては、統合会社が川下事業の競合他社に対して当該データベースの供給拒否を行うことにより、川下市場の競合他社が当該データベースの入手先を日本アルトマークの競合他社に十分に切り替えることができないため、川下市場での競争力を減退させる恐れがあるというものです。

問題解消措置として、エムスリーが競合他社に対して当該データベースの提供を拒否しないこと、また、提供する場合に、価格や内容、品質などの取引条件について差別的な取り扱いを行わないことを条件に、本件統合が認められました。

(7)公正取引委員会の企業結合対応方針の改定

以上、事例を紹介しましたが、先ほども申し上げた通り、公正取引委員会の企業結合対応方針も改定されています。

繰り返しになりますが、当事会社のうち非買収会社の国内売上高などに係る金額のみが特定基準を満たさないために届出を要しない企業結合計画のうち、買収対価の総額が400億円を超えると見込まれるものについて、従来の売上高基準には達しないものの買収対価が非常に高額になるものについて、以下の①から③のような、国内の需要者に影響を与えると見込まれる場合には、当事会社は公正取引委員会に事前相談することが望ましいとされています。

  1. 被買収会社の事業拠点や研究開発拠点等が国内に所在する場合
  2. 被買収会社が日本語のウェブサイトを開設したり、日本語のパンフレットを用いるなど、国内の需要者を対象に営業活動を行っている場合
  3. 被買収会社の国内売上高合計額が1億円を超える場合

これは、届出義務を課すという法改正ではなく、ガイドライン上事前相談をすることが望ましいとされていることになります。

実際に、GoogleによるFitbitの買収案件は、Fitbitグループの日本国内売上高が50億円を超えず届出基準を満たさなかった案件ですが、買収対価の総額が400億円を超えると見込まれ、かつ日本国内の事業者に影響を与えると見込まれたことから、公正取引委員会の審査が実施された事例となります。

(8)デジタルプラットフォーム透明化法

次は、デジタルプラットフォーム透明化法についてです。こちらも先ほど少し説明しましたが、現在、特定デジタルプラットフォーム提供者として、物販総合オンラインモール、アプリストア、メディア一体型広告デジタルプラットフォーム、広告仲介型デジタルプラットフォームの4種類が指定されており、要件としてそれぞれ国内売上高がいくら以上という形で定められています。

特定デジタルプラットフォーム提供者の種類要件
物販総合オンラインモール3,000億円以上の国内売上額
アプリストア2,000億円以上の国内売上額
ディア一体型広告デジタルプラットフォーム1,000億円以上の国内売上額
広告仲介型デジタルプラットフォーム500億円以上の国内売上額

こうした要件を満たす事業者に対しては、開示義務、手続き・体制整備義務、経済産業大臣への報告義務が課せられています。

開示義務の中には、例えば、「当該特定デジタルプラットフォーム提供者が商品等の売上額の推移等のデータを取得し又は使用する場合における当該データの内容及びその取得又は使用に関する条件」について開示をしなさいという項目があります。例えばオンラインモールの場合、利用者がそこで買い物をすることによって、商品などの売上データが取得されますが、そのようなものを取得して使用するのであれば、その内容や取得・使用の条件をきちんと開示しなさいという法律になっています。

2つ目として、「当該特定デジタルプラットフォーム提供者が一般利用者による商品等に係る情報の検索、閲覧又は商品等の購入に係るデータを取得し又は使用する場合における当該データの内容及びその取得又は使用に関する条件等」も開示しなさいという規定になっています。

また、手続き・体制整備義務、経済産業大臣への報告義務が課されており、特定デジタルプラットフォーム提供者に指定されると、年次報告などの形で報告義務を負うことになります。

(9)スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律

次に、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」についてです。これは2024年に制定されたスマートフォンソフトウェアに関する法律です。2025年の12月19日までに全面施行される予定です。

「特定ソフトウェア」として以下を定める

  • 基本動作ソフトウェア(OS)
  • アプリストア
  • ブラウザ
  • 検索エンジン

これは欧州のDMA(デジタル市場法)と少し似ている部分があり、特定ソフトウェアとして、基本動作ソフトウェア(OS)、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンなどを定めています。

これも特定ソフトウェア事業者が指定されることになっており、一定の売上高などの条件に基づいて、今後ソフトウェア事業者の指定が行われることになっています。

この法律では、様々な禁止事項や遵守事項を定めており、例えば、他の事業者がアプリストアを提供することを妨げてはならない、他の課金システムを利用することを妨げてはならない、といった内容が盛り込まれています。

主な禁止事項及び遵守事項

  • 他の事業者がアプリストアを提供することを妨げてはならない(※正当化事由あり)
  • 他の課金システムを利用することを妨げてはならない(※正当化事由あり)
  • デフォルト設定を簡易な操作により変更できるようにするとともに、ブラウザ等の選択画面を表示しなければならない
  • 検索において、自社のサービスを、正当な理由がないのに、競争関係にある他社のサービスよりも優先的に取り扱ってはならない
  • 取得したデータを競合サービスの提供のために使用してはならない
  • アプリ事業者が、OSにより制御される機能を自社と同等の性能で利用することを妨げてはならない(※正当化事由あり)

データに関しては、取得したデータを競合サービスの提供のために使用してはならないという内容が含まれていますが、特定ソフトウェア事業者に指定されると、このような遵守事項も適用されることになります。

(10)株式会社MCデータプラスに対する排除措置命令(R6.12.24)

最後に、最近の事例として、MCデータプラスに対する排除措置命令についてご紹介します。これは、2024年12月24日に公正取引委員会が命令を出したものです。

当事者が争っているため、最終的な決着はまだ不明ですが、ここでは、公正取引委員会の命令で述べられている事実についてご紹介します。

MCデータプラスは、「建設サイト・シリーズ」と称する建設業向けクラウドサービスを建設業者などのユーザーに提供しており、その主なサービスとして「グリーンサイト」という労務安全サービスを提供しています。

ユーザーはグリーンサイトの利用にあたり、自身の作業員情報などを登録する必要があります。グリーンサイトのユーザーが他社の労務安全サービスに切り替えるためには、他社の労務安全サービスに作業員情報などを再度入力して登録する必要があります。

しかし、この登録のために入力が必要となる作業員情報は、作業員1人につき最大100項目を超えることがあるため、多くの作業員を抱えるユーザーにとって作業員情報の登録は大きな負担となります。

ユーザーがグリーンサイトに登録した自身の作業員情報などは、労務安全書類の作成などに利用され、ユーザーは必要に応じて労務安全処理を電磁的記録である帳票として出力することができます。

MCデータプラスは、グリーンサイトにおいてユーザーが帳票として出力する場合を除き、ユーザーが登録した作業員情報などを電磁的記録として直接出力することができないようにしています。つまり、他社に乗り換える際に、登録情報を直接出力して持ち出すことができないようになっています。

公正取引委員会が認定した違反行為の概要は以下の通りです。

MCデータプラスは、自社が提供する労務安全サービスの優位性が低下するリスクを回避するためには、グリーンサイトに登録された作業員情報などを新規参入してきた他社に流出させないことが不可欠であると認識し、グリーンサイトのユーザーが他社の労務安全サービスへの切り替えをしないようにしていました。

MCデータプラスは、遅くとも令和2年頃から、グリーンサイトのユーザーから他社の労務安全サービスへの切り替えのために作業員情報の提供要請があった場合に、当該ユーザーが自ら登録した作業員情報であるにもかかわらず、個人情報の保護を理由にするなどして、合理的な理由なく当該作業員情報の提供を拒否しました。

MCデータプラスは、シェルフィー株式会社による移行記事の公開をやめさせることを目的として、サービス利用約款を改訂し、グリーンサイトのユーザーに対し、グリーンサイトから出力した帳票及び当該帳票を印刷した文書を他社に提供する行為を一律に禁止しました。

さらに、MCデータプラスは、グリーンサイトのユーザーが株式会社リバスタの提供する労務安全サービスへの切り替えにあたり、グリーンサイトから出力した帳票などをそのまま他社に提供している事例を把握したことから、周知文を建設サイト・シリーズのポータル画面に掲載するとともに、前記周知文と同様の内容を記載した電子メールを送信しました。

これらの行為が違反行為とされています。

排除措置命令の概要は以下の通りです。

MCデータプラスは、ユーザーに対しグリーンサイトを提供するにあたり、作業員情報を提供するよう要請された場合に、合理的な理由なく、ユーザーが自ら登録した当該作業員情報をユーザーが求める形式で当該ユーザーに提供することに応じない行為を取りやめなければならないという命令が出ています。

今申し上げたような行為の説明が、こちらの図表にまとめられています。

Ⅳ.さいごに

プラットフォーマーによるデータの囲い込みは、競争法上の問題を引き起こす可能性があります。欧米では、データ収集行為や企業結合におけるデータ集積が問題視され、規制が強化されています。

日本でも、プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備が進められており、公正取引委員会によるガイドライン策定や法改正が行われています。また、デジタルプラットフォーム透明化法やスマートフォンソフトウェアに関する法律など、プラットフォーマーに対する事前規制も導入されています。これらの法律は、プラットフォームの透明性向上や公正な競争環境の確保を目的としています。

今後も、プラットフォーマーによるデータの囲い込みは、競争法上の重要な課題として議論され、規制が強化されていくと考えられます。企業は、データ戦略を策定する際には、競争法上のリスクを十分に考慮する必要があります。

ベンダーX(甲)は、製造業者(乙)からデータの提供を受け、目的の範囲内で非独占的に利用できることを1項で規定しています。2項では、提供データに関する知的財産権については乙に帰属することを規定しています。発想としては、元々乙が持っていたデータなので、データに関する知的財産権は乙に帰属するという発想です。

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